Q9 土圧計算に用いる粘着力について
| いつも興味深く右城先生の著書を拝見しております。専門書の中では唯一,著者名で購入しております。昨日,「土木構造物 設計・施工の盲点」を手にいれました.これまでで一番読みやすく,続編を期待しております。 著書の49頁からの「8mを越えたとたんに不安定になる話」について質問致します。 8mを超える擁壁については「土質定数の設定は各種土質試験に拠ることを原則とする。粘着力を考慮する場合は、施工中の乱れの影響を考慮し、過大評価にならないよう注意する必要がある。(道路土工/擁壁工指針 平成11年3月)」という記述があります。これによれば土質試験により粘着力が確認されればその値を計算内に考慮して良い、と考えられる反面、「施工中の乱れの影響を考慮し、過大評価にならぬような」値に低減する判断が下せずに結局粘着力を計算内に考慮することができないのです。「土木構造物 設計・施工の盲点」のなかで、「地震時土圧に粘着力を考慮すれば、・・・回避される。」と結んでいますが、試験結果により算出された粘着力の取り扱いについてどのようにお考えなのでしょうか。 |
回答
ご質問の内容に関しては,建設省土木研究所施工研究室の青山氏が,土木技術資料(Vol.42,No.8,2000)Q&Aのコーナーに「擁壁工背面土の土質定数の取り方」と題して記述されています.大変参考になると思われますので,以下に,その要点を紹介します.
(1) 道路土工−擁壁工指針の考え方
@ 擁壁の土圧を算定するための背面土の土質定数は,土質試験を行って決定することを基本としている.
A 高さ8m以下の擁壁で土質試験を行うことが困難な場合には,経験的に土質分類から推定された設計定数を用意している.
B 擁壁工指針で用意している設計定数は安全余裕を含んでおり,壁高が高い擁壁では過大設計になる可能性があるので土質試験を実施して適切な土質定数を設定する必要がある.
(2) 土質試験法
@ 試験方法は,盛土材料の透水性,含水比,盛土高さ,盛立て速度,排水材の有無によって判断する必要があるが,一般には圧密非排水(CU)三軸圧縮試験が適当である.粘性土である場合には,非圧密非排水(UU)三軸圧縮試験も考えられる.
A 三軸圧縮試験の供試体は,盛土を代表する土質材料で,現場で想定される施工状態を考慮した含水比,飽和度,密度で製作する.試験時の拘束圧は,想定される盛土高さの1/2の高さでの水平応力を中心にその前後で設定する.
(3) 試験結果の取り扱い
@ 粘着力は施工中の乱れ,降雨による影響によって大きく変化すること,粘着力は土のせん断破壊が生じた場合にせん断ひずみが大きくなって発揮されることを考慮し,過大評価にならないように注意する必要がある.
A 粘着力の値が0になっても,擁壁が極限状態で安定を保つことができる(滑動,転倒,支持力の安全率が1.0を下回らない)範囲で設定するのが一つの目安である.
土質試験で得られた粘着力をどの程度割り引いて設計に用いるべきか,ということに関しては統一された考えがないようです.土質工学ハンドブック(地盤工学会,p268,1983)では,「土質試験値の1/3程度を採用する」と記されています.
著者は,土質試験が行われていない場合,通常の盛土材の粘着力c(kN/m2)はc=H(Hは擁壁高で単位はm)として推定すればよいと思っています.これは以下の理由によります.
@正規圧密された土の粘着力は,深度方向に線形的に増加する傾向がある.
A斜面安定解析では,経験的にc=H(Hはすべり面の深さ)として粘着力を推定している.
B変状を生じた擁壁について,安全率Fs=1として逆解析すると,c
>Hの関係が得られる.
Cc/Hの値が大きすぎると,試行くさび法では主働土圧が求まらなくなる.