Q106 大型ブロック積み擁壁設計・施工マニュアル(改訂版)に関して 

 大型ブロック積み擁壁設計・施工マニュアル(改訂版)に関して下記の事項に対する回答をお願いいたします。

@粘着力による自立高さの算定式
 H10年度版では,土圧計算時の粘着力自立高さの算定式がzc=2c/γtan(45゜+φ/2)-q/γとなっていました。ところが,改訂版ではzc=2c/γtan(45゜+φ/2)となっています。改訂された理由は。

A衝突荷重に対する考え方
 p.16に「ブロック積み擁壁の場合,衝突荷重を作用させて断面計算を行うと,擁壁上部でコンクリートの曲げ引張応力度が許容値
超過する。対策として,図解2.6に示すようなガードレール基礎を設置するのがよい。擁壁上端にガードレール基礎を設置する場合は,自動車衝突時の応力照査を省略することができる。」と記述されています。
 ここでのブロック積み擁壁とは,標準設計に準拠した一般的なブロック積み擁壁の場合と理解してもよろしいでしょうか。
 また,ブロック積み擁壁本体が構造的に問題ないと判断できる文献等があればご紹介下さい。

B支持力算定における底面の有効幅の考え方
 底面での荷重の偏心量eがe<0の場合(躯体後方へ外れた場合も含む),B'=Bとして計算してよろしいでしょうか。

C支持力算定に上界法を採用した理由
 H10年度版では,プラントル系の支持力公式が採用されていましたが,今回,何故,上界法に変更されたのでしょうか。荷重の偏心傾斜を考慮した支持力計算法には,マイヤーホフの式や道路橋示方書式が一般に用いられているにも関わらず,これらの式を何故採用しなかったのでしょうか。

D砂質土の場合,土圧計算に粘着力を考えないとした理由
 H10年版では,砂質土の場合も地震時の土圧計算には粘着力を考慮できるものとなっていましたが,改訂版では粘着力を無視するものとなっています。改訂された理由をお教え下さい。

ESPブロックへの適用について
 講習会で配布されたソフトによる計算書出力例では、ブロック寸法の形状がIタイプとボックスタイプの2種類になっています。このソフトでは,Iタイプとボックスタイプしか適用できないのでしょうか。SPブロックの場合にはどのように計算すべきでしょうか。

F道路土工−擁壁工指針とマニュアルの設計上の相違点
 社内勉強会及び技術営業資料として使用したいのですが、大型ブロック積み擁壁設計・施工マニュアル(改訂版)の 設計計算の考え方と道路土工擁壁工指針との考え方や計算式の相違点を一覧表で示してください。

G 「2.3.8 控長の異なるブロックを用いる場合の計算」では、控長の異なるブロックを一体のものとして計算を行っておりますが、「続・擁壁の設計法と計算例」の中の混合擁壁の計算のように、この場合は3段積みの混合擁壁と考えて、一段ずつ下段の擁壁に伝わる荷重を計算するようなことは行わなくても良いのでしょうか。


回答

@粘着力による自立高さの算定式
 道路土工−擁壁工指針では,粘着力の自立高さを式(1)で算定するものとしています。
 zc=2c/γtan(45゜+φ/2)  式(1)
 この式が成り立つのは,地表面の載荷重が0,地表面が水平,壁面が鉛直,壁面摩擦角が0で,かつ設計水平震度が0の場合に限られます。つまり裏込め土がランキンの主働塑性状態になる場合に限られます。このような場合で,載荷重qがあれば,理論上は次式とすべきです。
 zc=2c/γtan(45゜+φ/2)-q/γ  式(2)
 改訂版で下記の理由で式(1)を採用しました。
 ・:zcの値は主働土圧に対して鈍感であり,極限平衡法によって厳密に求めたzcを用いても,式(1)によるzcを用いても主働土圧の値に大差がない。
 ・地表面が水平な場合は式(2)を適用できるが,嵩上げ盛土がある場合には式(2)が適用できない。
 ・道路土工−擁壁工指針では,式(1)でzcを求めるものと割り切っている。
 なお,zcの厳密な算定法は,拙著「続・擁壁の設計法と計算例」p37-40,「擁壁設計Q&A選集」p33に記述してありますのでご覧になって下さい。

A衝突荷重に対する考え方
 ブロック積み擁壁の天端にガードレール基礎を設置し,ガードレール基礎のみで衝突荷重に抵抗させれば,衝突荷重によってブロック積み擁壁に応力集中が発生する恐れがないという経験的判断です。
 テール・アルメ工法では,擁壁天端にL型のガードレール基礎を設置することで,衝突荷重が本体に影響を及ぼさないとして設計しています。
 この考え方は,間知ブロックを用いた練積み擁壁に対しても適用できるものと思われます。

B支持力算定における底面の有効幅の考え方
 マニュアルでは,B'=Bとするのではなく,B'=B-2eとして計算するものとしています。e<0の場合には,B'>Bとなります。この考え方は,ゲルセバノフの提案に基づいています。
 なお,eは荷重(主働土圧と自重)の偏心量ではありません。底面の鉛直地盤反力の合力の偏心量です。マニュアルでは,地盤反力は底面と壁面に発生するものとして(剛体折れ曲がり基礎),地盤係数法により算定することにしています。このため,壁面勾配が緩くてもeが底面から後方へ外れることはありません。

C支持力算定に上界法を採用した理由
 初版ではプラントル系の支持力係数(Ncはライスナー,Nqはカコー,Nγはベーシック)を用いて支持力を計算するものとしていました。しかし,建築基準においてもH12年度の施行基準の改訂により荷重の傾斜を考慮して支持力を算定することになりました。こうした情勢の変化に対応するため,本マニュアルにおいても荷重の偏心・傾斜を考慮した支持力算定をおこなうものとしました。
 荷重の傾斜を考慮した支持力計算法には,一般に下記の2つの方法が用いられています。
 ・プラントル系の支持力係数をマイヤーホフの近似式で補正する方法(建築基準)
 ・Nc,Nqはプラントル系の支持力係数を傾斜荷重に拡張した駒田らの式,Nγはソコロフスキーの数値解を用いる方法(道路橋示方書)
 いずれの方法も,NcとNqは地盤の自重を無視し,Nγは粘着力と載荷重を無視して求められた値を足して支持力を求める方法を採用しています。手計算で支持力を算定しなければならない時代には,このような乱暴な方法もやむを得なかったと思われますが,現在ではパソコンによる設計計算が一般的になっています。
 こうしたことから,より理論に忠実な計算法が好ましいと考え,極限定理に基づいた上界法を採用しました。この方法ですと,斜面上の基礎であっても簡単に支持力が算定できるというメリットもあります。
 詳細については下記をご覧になって下さい。
 直接基礎の支持力計算法

D砂質土の場合,土圧計算に粘着力を考えないとした理由
 砂質土であっても粘性土分が混ざっていればc=H程度の粘着力は十分期待できます。しかし,乾いたきれいな砂の場合には,粘着力が見込めません。砂質土と記述すると,乾いたきれいな砂も含まれるという誤解を招く恐れがあります。このような理由で,砂質土についてはc=0としました。

ESPブロックへの適用について
 マニュアルでは,たて壁の断面計算において胴込めコンクリートと大型ブロックの境界面の付着力は無視することにしています。このため,引張応力に抵抗するのは胴込めコンクリートのみとして計算する必要があります。
 大型ブロック積み擁壁設計計算専用ソフトでは,一般的な大型ブロックの全てに対応できるようにするため,下記の項目を入力できるようにしています。
 SPブロックの場合は,下図の右のような断面になりますので,隔壁厚さtnlとしては,1ブロックの全ての隔壁厚の和とすれば対応できます。


F道路土工−擁壁工指針とマニュアルの設計上の相違点

擁壁工指針 大型ブロック積みマニュアル
基本的な考え方 ・ブロック積み擁壁は設計法が確立されていない。
・経験に基づいた標準断面を使用
・計算する場合は,重力式擁壁の設計法に準拠する。
・安定計算,応力計算を行って断面を決定する。
・壁面の地盤反力を考慮した変位法によって解析
基準の特徴 ・標準断面が規定されているので,設計計算を必要としない。
・標準断面がどのような条件に適合するのかが不明
・重力式擁壁の設計法に準拠しているため,荷重の合力が底面から後方へ外れる。このため,転倒の安定性が照査できない。また,地盤反力の算出ができない。
・断面を求める近似式を示している。
・壁面の地盤反力を考慮しているので壁面勾配が緩くても荷重の合力が底面の中央1/3から外れることがない。
・壁面勾配が緩くても,転倒,地盤支持力の照査が可能。
擁壁に作用する常時の外力 自重,主働土圧(上載荷重を含む),底面の地盤反力 擁壁工指針の外力以外に壁面の地盤反力を考慮。
土圧計算に用いる土質定数 ・原則として土質試験による。
・土質試験が困難な場合は下記による。
 礫質土 φ=35゜,c=0
 砂質土 φ=30゜,c=0
 粘性土 φ=25゜,c=0
・原則として土質試験による。
・土質試験が困難な場合は下記による。
 礫質土 φ=35゜,c=0(地震時はc=H)
 砂質土 φ=30゜,c=0
切土部擁壁に作用する土圧の計算 試行くさび法 改良試行くさび法の簡便法
安定条件 転倒 自重と主働土圧の合力が底面の中央1/3以内

下記の両方を満足させる
@自重と主働土圧と壁面の地盤反力の合力が底面の中央1/3以内
Aつま先における転倒の安全率が1.5以上
滑動 底面の摩擦抵抗と主働土圧の水平分力の比が1.5以上 同左
支持力 ・最大地盤反力度が許容支持力以下
・許容支持力はN値等から経験的に決定

・極限支持力と底面に作用する鉛直力(底面の鉛直地盤反力)の比が3以上
・極限支持力は,荷重の偏心傾斜を考慮した上界法(速度場法)で厳密に算定することを原則
・擁壁高が8m以下で土質試験が困難な場合は擁壁工指針に準拠
応力照査 ブロック積み擁壁に関しては明記されていない 圧縮に対しては全断面有効
引張に対しては胴込めコンクリートのみ有効
発行所 日本道路協会 土木学会四国支部


G控長の異なるブロックを用いる場合の計算

1.大型ブロック積み擁壁は,一般に滑動の安定条件から断面が決定されます。したがって,控え長を変化させる理由が理解できません。施工を単に複雑化するだけでないでしょうか。

2.断面変化点で分離させた構造とすれば,断面変化点で回転変位を生じますので,解析が著しく複雑になります。混合擁壁とは,変位モードが全く異なりますので混合擁壁の解析法は適用できません。

3.本マニュアルでは,解析を簡単にする意味でブロック積み擁壁を剛体として解析することにしています。擁壁本体の曲げ応力度を照査しているのは,剛体としての妥当性を照査するためです。




大型ブロック積み擁壁設計・施工マニュアル訂正個所



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